--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「役立つ使い魔の作り方」

2009年11月15日 23:47

はあ、疲れたあ。今月も一つ頑張ってみました。
よかったら読んでくださいな。
「やるじゃないの私。もう完璧」
 目の前に描かれた魔法陣は、白い光が奔り明滅を繰り返す。徐々に明滅の間隔が短くなっていく。
「召喚魔法ってのは苦手だから手を出さなかったけど、そろそろ使い魔一つも従えないとね。さあて何が出るかしら?」
 魔法陣は組み込まれた式をなぞり、一つの奇跡を導き出す。今までは式を間違え、正しく奇跡を導けなかった。今回は魔法陣もちゃんと起動している。間違いなく今度こそ成功する。そう信じる事が出来る。
 魔法陣に光りが満ちる。ここに一つの奇跡は導かれる。期待と共に、私は叫ぶ。
「ここに奇跡は導かれん。我は汝と契約する者なり。我が契約と我が声と共に、召喚!」
 薄暗かったはずの地下室。今は光が魔法陣から溢れ、一瞬だけ部屋を眩しく照らす。眩しくて目を開けていられない。
 光りが静まり、私はそっと瞼を開く。視力が戻らない私には人影がうっすらと見えるだけである。
「……」
 人影がこちらを向くのがわかる。そして、こちらへとコツコツと靴音を響かせてこちらへと歩んでくる。
「あなたが私のご主人様で――、っとっとっと。――きゃんッ!」
 人影が転んだ。何かをしゃべろうとしたら転びましたよこの人。おそらく魔法陣の周辺は少し段差ができていたから、そこで足を踏み外したのだろう。
「……うう、痛いよぉ……」
 ようやく視力が戻り始めた私が見たのは、痛そうに額を撫でている女の人だった。
「……えーと、大丈夫?」
 心配になって、その人? 悪魔に手を差し伸べる。
「え、ええっ。大丈夫ですッ」
 女性は私の手を掴んで立ち上がる。これ以上、私に恥ずかしいところを見せたくないようで、痛みを必死の堪え、身体が小刻みに震えている。
 少し手当てした方がいいかもしれない。私の前じゃ我慢し続けそうだし。
「場所を変えましょう。ついでで、その怪我の場所を冷やしましょうか。跡が残ったら大変よ」
「そ、そうね。そうしてもらえるとありがたいです」
 女性も私の言葉に素直に従う。やっぱり悪魔でも痛いものは痛いようだ。


 儀式の最後が締まらなかったので、改めてここで儀式の続きを再開することにした。
 場所は、そこまで広くはないリビング。その真ん中に置かれたテーブルに二人は向き合う形で椅子に座っている。
 薄暗い地下室の中では女性の姿がよく見えなかったが、この光りが差し込むこの部屋では、その姿がはっきりと映し出されていた。
 深緑の長くうねる髪は蛇を思わせる。その長い髪は顔の半分まで垂れていて、表情はよく見えない。身体の方は、女性である私から見ても魅力的で、胸元はボリュームたっぷり。腰回りはスラリとしている。
 その好物件な身体には、フリルが満載の黒のドレス。――っと、いけない。つい見とれてしまったわ。
「そろそろ痛みはひいたかしら?」
「ええ、お陰さまで」
 彼女の口元には微笑が浮かんでいる。
「では改めまして、私はあなたの主人となるカミラ・アラスールです」
 どうぞよろしく。手を差し出しながらニコリと私は笑う。
「こちらこそ。ご主人様。私はメデューナと申します」
 そう言いながら、私と握手を交わす。出てきた時とは違い、余裕を持った対応である。これがさっきまで痛そうに額をぶつけてた人なのか。そう思うと、つい。
「くっ、ふふ。やっぱり、駄目ね。思い出しちゃった。そんなに真面目な顔してたら余計に思い出しちゃう」
 失礼だとは思うが仕方ない。だって思い出してしまう。そんな顔をしてたら、さっきの間抜けな顔と今の顔を重ねてしまう。そのギャップが余計に笑いを誘うのである。
「もう思い出さないでくださいよ。あれは不可抗力です。ちょっとしたミスです。どんな人だって、たまにはああいう事も起こりえるのです」
 メデューナは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして口を尖らせる。いかにも大人の女性ですといった見た目なのに、中身がどうも幼いようで可愛らしく思える。
「そうね。確かに知らない場所にやってきて、目の前に微妙な段差があったとしても、気付けないことだってあるわよね」
 そう言ってあげると、メデューナは「そうなのです」と満足げな顔をするのであった。
「メデューナって言ったわね」
 私は真面目な顔で話しかける。
「うん。じゃなくて、はい」
 一瞬、吹き出しそうになる。私はそれを堪えて、真剣な表情を顔に張り付ける。
「あなたは一体どんな力を持っているの? そこはきちんと知っておかないと」
「私の能力……ですか」
 少しの間を開けてから、彼女はおそるおそるといった様子で口を開く。
「あの……ですね。怒らないでくださいね?」
「怒らないわよ」
 なぜ自分の能力を相手に教えて怒らなければならないのだろうか? 少し不思議に思う。
「……実は、能力が使えないんです」
 はい? 今、何て言ったの。能力が無いですって? 
「ちょっと待ちなさい。そんなはずないでしょう? あなたみたいな人の姿をした魔族が能力一つも使えないなんて。そんなの、見たことも聞いたことが無いわ」
 人の姿をしている魔族のほとんどは上位魔族である。上位魔族は基本的に強力な魔力を持っていたり、能力を持っていたりするのが普通である。
 声を荒げてそう言うと、彼女の身体がビクリと震える。
「え、えと、使えないとは言っても、全く使えないという訳ではないです。一応、ほんの少しの効果があるのです」
「その能力って何なのよ?」
「はい、直接私の眼を見た生物を石化させる事です」
 ああ、それで髪の毛を降ろしてるのね。ほんの少しとはいえ、彼女の眼を見ないほうがよさそうね。
「ほんの少しってのは、どのくらいなの?」
「えっと、三秒だけ相手を石に出来るのです。でも、石化する前に三秒経つので、あまり効果が無いのです」
「微妙ねぇ」
「……すみません」
 申し訳なさそうに俯くメデューナ。なんだか先が思いやられるわ。でも、可愛いから許す。
「まあ別に能力が使えなくてもいいわ。それよりも」
「えっと、何ですか?」
「ディナって呼んでもいい? メデューナって何だか言いにくいのよ」
「いい響きですね。あだ名で呼んでもらえると親しみやすいですよね。どうぞ、そう呼んで下さいです」
 口元が綻ぶのがよくわかる。本当にこの子は素直で可愛いなあ。
「それじゃあ、大体の事がわかった事だし、ディナ、あなたに最初の命令を与えるわ」
 ディナは少し緊張した様子で私を見る。
「私の身の回りの世話をあなたに任せます」
「――はいッ! がんばるです!」
 ディナは目を輝かせて、満面の笑みで頷いた。


 魔法屋というのが私の仕事。町外れの森の中に建てられた、小さな一軒家でその魔法屋を営んでいる。
 魔法屋とは、魔法の掛った武器や防具、アイテムなどを販売する店の事である。魔法屋に並ぶ商品を見れば、その店の魔法使いがどの程度のレベルで、どんな魔法を得意とするのかがわかるという。例えば、高レベルな魔法使いであるほど、扱う商品や数が多く質も良い。反対に低レベルであると、商品の質が悪かったりする――といった感じだ。
 私の営む魔法屋では、主に魔法効果の付いた剣を取り扱う。私は剣に魔法効果を加える魔法――エンチャントが得意なのだ。
 ただエンチャントを行うには、材料が必要なのである。その材料とは、魔物が持つ鱗や尻尾などの事。力のある魔物程、よい能力を持った材料となる。
 最近はある程度の常連が付き、店の方もなかなか好調なのだが、そのせいで商品の数が減ってきた事実もある。
「あれ、今日はお店開けないんですか?」
 いつものドレス、では無くエプロン姿のディナは掃除をする手を止め、私に尋ねる。
店を開ける時間であるのに店の入り口を閉まったまま。召喚されて二週間ほど経ち、それなりにこの店の手伝いにも慣れてきたディナ。そのディナが不思議に思うのも無理はない。
「ええ、今日は友達と出掛けることになってるの。悪いけど、留守番お願いできるかしら?」
「わかりましたー。よーし今日は色々と大掃除でもしようかな」
 持っている箒を強く握りしめるディナ。
「店の方は大掃除しないでね。どこに何があるか分からなくなっても困るからね」
「わかってますよう」
 そんな会話をしていると、店の扉をガチャガチャと開けようとする音が響く。
「お客様ですかね?」
 急いで扉の方へと向かうディナを呼び止める。
「違う、違う。友達が迎えに来たのよ。何で待たずにこっちに迎えに来るのかしら。ここに来る方が時間が掛かるってのに」
 そう言ってると、扉の向こう側から声がした。
「おおーい。カミラ! 迎えに来たぞー」
 元気の良い、大きな声である。
「はいはい。今開けるわよ」
 少し呆れた顔をしながら、扉を開く。扉の向こうにはカミラとほぼ同じくらいの背丈の少年の様な、元気で若々しい雰囲気を持った青年がいる。黒い革製の軽鎧を身に纏い、腰には飾り気の無いショートソードがぶら下がる。どこか冒険にでも行くかのような装備である。
「お、何だぁ。この可愛い子、新しく人でも雇ったか?」
 遠慮無く店の中に入ると、男はさっそくディナの姿を見つける。
「違うわよ。私の使い魔のディナよ」
「は、はじめまして! カミラ様の使い魔のメデューナと言います」
 よろしくです、と言いながら髪先が床に付くほど深くお辞儀をする。
「ははっ、面白そうな子だな。俺の名前はゼナ。ゼナ・クルトだ。カミラとは長い付き合いをさせてもらってるぜ」
「そうね。冒険ではいつも世話になってるわ、冒険では、ね」
 それ以外での付き合いはしていないわよ。そんな顔でカミラは軽く返す。
「冒険だけかよ、ひっでえ言いようだ」
 カミラの言葉にゼナは笑って受け止める。
「じゃあ、無駄話してないでそろそろ出掛けましょうか」
「お、そうだな。カミラ、この子は連れて行かないのか? 使い魔だろ」
 使い魔は戦闘面でのサポートとして魔法使いが連れている事が多い。ゼナが疑問に思うのも当然だ。
「駄目よ。この子にはまだ早いわ」
 流石にゼナにも、自分の使い魔が大した能力が無いという事を教えたくは無い。
「召喚して間が無いの、もう少し環境に慣れてからの方がいいのよ」
「そうか? 少しは戦闘の事も経験させた方がいいって、な? メデューナちゃんもそう思うだろ」
「え、えと私もご主人様が戦う所を見てみたい気もしますけど……」
 そう言ってしまったが最後、ゼナは一気に捲し立てる。
「じゃあ決まりだ! どうせ今日の得物はそれほど手強い奴でも無いだろ?」
「ん、んん。まあそうだけど」
「それじゃあ決まりだな!」
「え、ちょっと。ああ、もうゼナってば話を全然聞かないんだから。いいわディナ、私たちに付いてきなさい。ただし、私達の傍から離れないでね。後、今回は見てるだけよ、いいわね!」
「わかりました!」
 カミラはゼナが言いだしたら止められない事をよく理解している。だからもう諦めることにした。
 ディナはというと、なんだか嬉しそうに私を見ている。まったく、ピクニックじゃないってのに。
 カミラは朝から大きな溜息をつくのであった。


「ゼナ、来るわよ!」
「よっしゃ! 任せとけ」
 大きく広がった山道。三人の目の前に、巨大な猪の魔物が存在する。グランボアと呼ばれる魔物。
その大きさは私達の身長よりも三倍はあるだろうか。脚は大木の様に太い。その足で勢いをつけ、私達に突進を仕掛けようとしている。
 正面から仕掛けても勝ち目は無い。この場合には、カミラが囮になり隙を付いてゼナが奇襲を掛けるという作戦を取る。ディナは私たちから少し離れた木の陰から様子を窺っている。
 来た。土煙を上げて直進してくるグランボア。カミラはタイミングを見計らう。
 ――今だ! 素早く横へと走る。同時にグランボアがカミラのいた場所を通り過ぎていく。
 カミラはすぐさま後ろに向き直り、既に詠唱された魔法を解放する。
「食らいなさい!」
 突き出した手から、光りが奔り魔法陣が描かれる。その魔法陣から、無骨なロングソードが現れたかと思うと、矢の様にグランボアの背後目掛けて飛んでいく。
 剣はカミラの狙い違わず、大木の様な右後ろ脚を貫く。グランボアは森に悲鳴を上げ、バランスを崩し、自身の勢いずいた身体を地面を擦り上げ、とうとう横に倒れこんだ。
「どりゃあああ!」
 再び立ちあがる隙を与える前に、待ち構えていたゼナがグランボアの身体をよじ登り、脳天の場所にたどり着くと、大きく振りかぶり、勢いよく脳天を剣で突き刺す。
 断末魔を上げながら、グランボアは息絶える。
「おつかれさまです」
 トテトテとディナは二人の方に近付いていく。その間に二人はグランボアの牙を切り終えた所であった。
「これくらいどうってこと無いわ。よしゼナ、次の獲物を探すわよ」
 余裕の表情で次の獲物を探そうとするカミラ。あれほど戦ってきたのに息一つ乱れていない。
「いや、そろそろ休憩しようぜ。さすがの俺も疲れたわ」
 一方ゼナの方は、汗が滴り革の鎧へと吸い込まれていく。そう言うや否や地面に背中から倒れこんだ。
「何よ。だらしないわね」
「お前は魔法使ってるから楽かもしれんが、俺はあっちこっち走り回ったりしてるんだ。一つここで休憩しようぜ」
 すでにグランボアだけでは無く、他にも何体かの魔物を退治してきている。ゼナが疲れるのも無理は無い。
 ゼナが疲れて、いざという時に動けなければ生死にも関わる。カミラは少し調子に乗りすぎたかなと思いつつも、顔には仕方ないなというような表情を張り付ける。
「わかったわよ。じゃあ休憩を取りましょう。ディナ、そろそろお昼の時間だから荷物からお弁当を出してくれない?」
「はーい」
 荷物からお弁当を取りだすディナ。それを見るとゼナはゆっくりと起き上がる。
「そうか。そう言えば飯の時間だな。おい、俺の分は用意してあるんだろうな?」
 疲れても食い意地だけはあるゼナ。
「ちゃんとあるわよ。そう急かさないの。まったく子どもじゃないんだからちゃんと大人しく待ってなさい」
 まるで子を諭す親の様だ。ディナはクスリと小さく笑いながら、昼食の支度をする。


「そういやさー」
 昼食が食べ終わり、つかの間の休憩を取っていると、なんとなくといった様子でゼナはカミラに尋ねる。
「なんでディナちゃんは俺達のかなり後ろから見てるだけなんだ?」
 カミラにとって、今聞かれたくないものを尋ねられた。
「だから言ったでしょう? まだ召喚して間も無いからだって」
「それは聞いたけどさ、おかしいだろ? ディナちゃんは上位魔族っぽいし、何にも出来ないって訳でもないだろ?」
 だから聞かれたくないってのに。ゼナはこういう所で鋭い。
「別にいいでしょう? 私の使い魔なんだから、私なりの方針があるのよ」
 こう言えば、ゼナも何も突っ込んでこないはず。そう思ってたのに。
「使い魔を使わない魔法使いがどこにいるんだっての、ちゃんと使ってやらないとディナちゃんが可哀想だろ」
「なんであんたに可哀想とか言われないといけないのよ」
「なんでそこでお前が怒るんだよ」
 いつの間にか空気がピリピリとしたものに変わっている。今にも二人はケンカを始めそうな、そういった空気がここにある。
「ごめんなさい!」
 ディナは二人の間に入り、ゼナに謝る。カミラはそれに驚く。
「私、まだ自分の能力がうまく使えないんです。だから、今は練習中なんですけど。ご主人様はそれをあなたに知られたくなかっただけなんです! だからそんな理由の為にケンカなんてしないでくださいです!」
 驚いたのも一瞬で、すぐカミラはディナを呆れた顔で見る。
「ああもう、ディナ。……言わないでよ、恥ずかしいじゃないの」
 頭を掻いて、顔を真っ赤にしている。
「なんだ、そういう事か。しっかし……、使い魔なのに使えないんだな」
 ゼナは特に考えたわけでもない言葉だった。カミラの顔が凍り付く。
「ならさ、また召喚しなおして、新しい魔族を召喚したらどうなんだ? 使える奴をさ」
 そのゼナの言葉は、カミラを傷付けるには十分であった。
「ああ、そうですか。私はろくな召喚も出来ない魔法使いですよーだ。もういいわ。ディナ、先に行きましょう。準備しなさい」
「ええ、で、でも」
 戸惑うディナに、カミラはよけに腹が立ってしまう。
「もういい! 私だけ先に行くわ!」
 荷物をさっさと纏めると、大きく足音を立てながら森の奥へと進んでいく。
 二人は茫然とその場に残されてしまうのだった。


「ああ、なんか腹が立つわ。もう!」
 一層強く地面を強く踏みつける。それでも苛立ちは収まらない。
 ゼナには知られたくはなかった。召喚したのが、全然能力の使えない使い魔だっただなんて。それを知ってもゼナは気にしなかったみたいだけど。
「それでも――あんな事言うなんて信じられない!」
 もう一度やり直せですって? せっかく勉強して、ようやくの思いで召喚した初めての使い魔を簡単に手放せると思う? 他の人は知らないけど、私は嫌。それにあんなに可愛い子なのに手放したく無いに決まってるでしょう。
 もしもディナが能力が使えなくて、見た目も悪かったなら召喚し直した可能性もあるが、それは考えない事にする。
「あの子もあの子よ。簡単に秘密を漏らすなんて、私がどれだけ隠そうと思っていたのかも知らないで!」
 ほとんど勢いで怒っているのだが、本人は気付いていない。
「ああ、もう!」
 足元にあった小石を思い切り蹴飛ばす。小石は高く、遠くまで飛んで行って――
「ギャーッス!」
 鳴き声が森に響く。小石が木の上にいた鳥の魔物にぶつかる。
「あ……」
 この森に生息しているセルカーラという魔鳥の一種。人間の大人ほどの大きさがあり、小さな動物なら丸のみしてしまう。大きな動物なら、その鋭い嘴で獲物を突き刺し、息絶えた所で食らうという。
 間抜けな声を出してる間にも、セルカーラがこちらに気付き、カミラの方へと向かってくる。
「ええい! 腹が立つから相手になってあげるわよ!」
 カミラは後ろに向き直り、走りながら詠唱を始める。


「……。あれはゼナさんが悪いと思うのです」
「悪かったよ」
「それはご主人様に直接言って下さい」
 あの後、カミラに置いて行かれた二人。ディナは怒った様子で、髪に隠された目でゼナをじいっと石化させるかのように見つめている。
「……」
 会話が止まると、やはりじいっとゼナを見つめるディナ。
「わかった。謝るから、そうやって無言で俺を見るのは止めてくれ」
「じゃあ、行動で示して下さい。別に私はどう言われても平気です。でも、ご主人様を傷つけたのは許せないのです」
「わかったから。じゃあ、カミラを探しに行こう。早くしないと見つけられなくなっちまう」
「わかりました」
 その後も、ゼナの後ろを付かず離れず無言で着いてくる。ゼナが十分に反省する事になったのは言うまでも無い。


「もうきりが無い!」
 その後、攻撃される前にセルカーラの身体を剣が貫いたのだが、一人と一匹が戦っているのに気付いたセルカーラの仲間達が向かってくるのである。セルカーラは群れで行動する魔物。頭に血が上っていたカミラは、そのことをすっかりと忘れていた。
 とにかく近付かれる前に剣を発射しているのだが、口がからからでうまく詠唱できない。それに魔力も底をつくだろう。狙いも甘くなり、何匹かがカミラに向かってくる。
「森の中なら、上空からの攻撃が出来ないはず!」
 荷物の中にあったマジックアイテムの閃光玉を取りだすと、セルカーラ達目掛けて投げつける。
 閃光玉が炸裂すると、辺りはまぶしく照らされる。セルカーラ達が光で怯んでいるうちに木々の多い場所へと走り出す。
 今の場所はかなり木々が開けた場所で、木々の多い場所に行くには少し遠い。
 あと少し、そう思った瞬間――
 その鋭い嘴が私の右の太股を貫いた。
「痛ッ――!!」
 悲鳴にもならない。私は痛みを堪え、太股を貫いている奴を一刀のもと、首を切り飛ばす。
 だが、ここまでだ。脚が動かせなければ、奴らの餌食になってしまう。
「こんなことなら喧嘩しなきゃよかったな。なんてね」
 太股に嘴を突き刺したまま、私は座り込んでしまう。血が嘴の隙間からじわじわと漏れている。
 セルカーラ達は、私の様子を窺い、周囲を飛び回る。気を抜いたら間違い無く、私の身体は穴だらけにされてしまう。だが、簡単にやられるつもりはない。
 そんな考えを彼らは理解しているのだろう。死に掛けた生き物の最後の悪あがきで痛手を負う必要はない。待っていれば必ずその時が来るのだから。
 もう駄目なのかな。そう私は思った。
 気が緩んだのがわかったのだろう。セルカーラ達は私目掛けて――
 目を閉じて、私は最後の瞬間を待つ。
 だが、いつまで経っても、何も起こらないのだ。私はそっと目を開けるとそこには。


「おい、今の見たか」
「はい!」
 カミラは何かの魔物と戦っているのだろう。木々の向こう側で閃光弾が炸裂している。
 二人は急いで走ると、セルカーラの群れがカミラを襲っている。
「くそ! セルカーラか。こりゃ厄介だぞ。早くあいつを助けないと。いくらカミラでもあんな数は捌けないぞ!」
「急ぎましょう!」
 装備の違いなのか、それとも魔族の身体能力がすごいのか。物凄い勢いでディナはゼナを追い抜いて、カミラを目指して走り出す。
「お前、足速いな!」
 ゼナの言葉も聞こえない。とにかくディナは一生懸命に走る。
 遠くで、ご主人様が懸命に闘っている。私が、――私が守らないと!
 その願いもむなしく、一匹のセルカーラがカミラの脚を貫く。
「ご主人様!」
「カミラ!」
 ゼナも後ろの方で叫んでいる。
 ディナの頭は真っ白になり、無我夢中で走る。
「ご主人様は私が守ります!」
 降ろした髪を掻き揚げて、私は自分の赤い瞳で、セルカーラ達を睨んだ。
 睨まれたセルカーラはたちまち石となり、空中から地面に落ちて粉々に砕ける。仲間の攻撃に気付いたセルカーラ達がディナの方へと目標を変える。
「どいてくださいですッ!」
 彼女の視線に貫かれ、たちまちセルカーラ達が石へと姿を変えていく。ディナは走り、カミラの元へと近付く。
 ご主人様を狙い、周囲を飛んで様子を窺っているセルカーラ達。ディナは呪い殺すような気持ちで彼らを視線で貫いた。


「大丈夫ですか! ご主人様」
「おい! 怪我してるじゃねえか」
 私は二人になすがままに脚を伸ばされる。
 ゼナとディナの二人の姿があった。セルカーラ達はどうなったのだろうか。二人だけで倒すにはあまりにも早すぎる。
 二人の周りを見ると、セルカーラ達の代わりに、大きな石が散らばっている。
 ディナは荷物から包帯を取りだし、それをゼナが受け取り手際よく私の太股に巻いていく。
「ありがとう。……でも二人ともよくここがわかったわね」
「あんなに眩しい目印があれば、すぐにわかるさ」
 ゼナはそう言ってから、最後に包帯を結んだ。
「それにしても、あんなに沢山いた敵をどうやって? あまりにも早すぎるわよ」
「そりゃな、こいつのおかげさ」
 ゼナが指を差すと、そこにはディナがいる。
「ディナが?」
「そうさ、能力なんて使えないって言ってたのに、大したもんだな!」
 ディナは私の傍に座り込み、涙目で私を見ている。そこで私は気付いた。顔が見えている。クリっとした赤い瞳が私を見つめている。
「私、もう無我夢中で……気が付いたら、皆石にしていましたのです」
「こいつが髪を上げた途端に皆、石になっちまったよ。で、奴ら飛んでるものだから、空中で石になって、地面に落ちて粉々になったって訳さ。俺も驚いたぜ」
「そうなの。ディナ。あなた、やればできるんじゃない」
 手を伸ばして頭をクシャリと撫でる。赤い瞳から涙が一つ零れる。
「はい。私、やればできたんですね。もう足手まといになんかなりません」
「そうね。今度から、あなたも一緒に冒険に付いてきてくれるかしら?」
「わかりましたっ!」
 ディナが顔を上げると、涙を流しながら優しく微笑んでいるのが見える。
「あなた、髪はもう上げている方がいいわ。その方が可愛いわよ」
「そうだな。俺もそのほうが可愛いと思うぜ」
「で、でも石にしちゃうかも……」
「大丈夫よ。ほら、私達は何ともないじゃない」
「あ、本当ですね」
 三人は大きな声をあげて笑った。
 笑い声釣られて、森の魔物たちが遠吠えを上げる。
「ここにいちゃまずいわよね」
「同感だ」
「そうですね」
 三人は同時に頷く。
「それじゃあ移動しましょう。あ、ゼナ。あなたは私をおんぶしなさい」
「何で、俺が……、ってケガしてるんだったな」
 あまりに私が元気そうなのでゼナは私が脚を怪我しているのを忘れていたみたい。
「そうよ。それにあなたのせいでこうなったのよ」
「それもそうだな。すまなかった。お前の気持ちも考えないであんなこと言ってさ」
 よいしょ、と私を背負い歩きだすゼナ。その後ろをディナは笑顔で着いてくる。
「もういいわよ。私がピンチになったからこそ、あの子もちゃんと自分の能力が使えるようになったんだし」
「もう召喚し直す必要も無くなったな」
「そうよ。私の使い魔はやればできる子だからね!」
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://reverscat.blog61.fc2.com/tb.php/15-24a0b50f
    この記事へのトラックバック



    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。